旅程作成の考え方
この頁では、サークルメンバーが公共交通を用いた町並み・集落・都市巡りの計画をどのように立てているかを紹介します。
1.概略行程
まずどのあたりに行きたいのか。季節や懐具合、休暇の連続日数等から、ホームランドの近くをさまよう散歩者となるのか遠方まで赴く旅行者となるのかを決めます。もちろん、祭事や放水訓練等の特定のイベント等により先に行先が決まって、それに合う日付を当て込む場合も多々あります。
なお、基本的に1日に回れる町場の数は、よっぽど近接していない限り5~6箇所が限度です。というのも、1箇所に1時間滞在し、次の町場まで待ち時間等含めて30分かかると仮定して6箇所で約9時間(朝8時から17時まで)の標準行程となるからです。
もちろん、それなりの都市であれば夜間のまちあるきで別の表情を見られることも多く、また純粋な町並みの造形のみを観るのであれば早朝日の出とともに行動を開始することもできますが、基本的にはその町場が地域の人々にとってどのような生活空間として使われているかを見るには、日中に訪れることが望ましいと考えています。
これらのことを考えて、また、いわゆる限界旅行(宿泊場所や交通機関にかける費用をケチり、格安・高負荷で旅行すること)をしていた頃は、重用されるネットカフェの夜間プラン(大抵は22時以降の入店かつ、滞在8~9時間の縛り)を鑑みて、次のようなサイクルで1日を回すことが多かったです。
泊地を朝6時頃出発→(もし朝が早すぎる場合、鉄道乗りつぶしや、バスで郊外まで出て通勤通学流動の観察等を実施)→近場に移動→朝イチで観光客や用務車がいない町並みや漁村のまちあるき→適宜移動→日中のまちあるき→夕暮れ→銭湯、商店街、ショッピングモール、夕食処等で入店までの時間調整あるいは2~3時間かけて移動し、次の日の朝に行きたいところの近くまで移動→夜22時頃泊地に入店→行程の立案・見直し等をしながら翌朝まで回復
2.立ち寄りたい場所、あるいは体験したい移動のリスト化
こうした「目的地」あるいは「目的パス」をリストアップすることを一部界隈では「打鋲」と呼んでおり、実際の旅行はあらかじめ地図上に打った鋲を回収していくように見えることから「収鋲」と呼んでいます。
こうしたリストアップは限られた余暇時間と予算制約の下での旅程立案及び旅行の効率化には不可欠ですが、これをあまりにやりすぎると旅行がスタンプラリー化、すなわち体験価値の質を評価せずただ訪れた場所の多さにのみ喜びを感じてしまうようになってしまうようになります。そもそも旅行とは「合理的」「効率的」でなくてはならないものでしょうか、ということを考えると、ほどほどにしておいたほうが良いかもしれません。
個人的な考えですが、未訪の場所を短時間で大量に浪費していくようなやり方よりは、あえて立ち寄りたい場所を残しておく、またもっと行きたくなるような発見をし続ける旅行である方が結果的に趣味として長続きするのではないかと考えています。
3.最も厳しい日の行程を組む
目的地の中には1日に何便かしかないバスで往復しなければならないような場所が含まれていることがあり、また体験したい移動が1日1本しか乗り継げないことは多々あります。また、地方山間部においては、宿泊地と公共交通の関係で、どこそこに宿泊していないと行き来に丸一日かかるような目的地もあります。こうした全体行程の律速となる日をどの曜日・日付に設定し、それを旅行の何日目とするのが最もすんなりと繋がるかを検討します。
4.前後の行程及びIN/OUT方法を確定する
3.で固めた行程の前後に継ぎ足すように目的地を追加していき、またどこから旅行を開始するか(そもそもは自宅からですが、航空機あるいは新幹線、フェリーで高飛びする場合はどこに降り立つのか)との兼ね合いで前後の日程がやんわりと見えてきます。
ここでは、たとえばフリー切符の有無や、目的地の並び方、宿泊場所が確保できるか、行程の美しさ等を総合的に勘案しながら現実的な行程を絞り込んでいきます。当然、行けなくなる目的地もあれば、新たに組み込まれる目的地もあります。1日で回れそうな目的地をいくつかぼんやりと想い、実際に公共交通で繋いでみてぴったりハマらなければ、別の目的地の組み合わせを考えてまた試行するを繰り返し、満足できるプランができるまで行程ガチャを回します。
この段階で最も困るのは、その地にある公共交通網の時空間的広がりを全て把握しきるのが困難ということです。例えば思いもよらないところをローカルバス路線で抜けられるところもあれば、表面上は路線が繋がっているけど時間的に繋がらないということも多々あります。こうしたときに一帯の公共交通網をカバーできる時刻表があれば、もっと効率的かつ多くの試行回数を回せるのに…!という気持ちになり、「陰陽連絡時刻表」を弊サークルが制作することに繋がりました。ダイマになりますが、中国地方山間部及び山陰のネットワークを形成する鉄道・バスはほぼすべてをカバーしているので、是非お手元にどうぞ。
5.旅程確定・手配
こうして旅程が全て固まった段階で予約などを始められたら理想なのですが、余暇の少ない社会人になってから、旅程を十分に検討する間もなく当日が来てしまい、完全に旅程が固まるのは旅が終わったときとなりつつあります。そのため、旅行を進めながら次の旅程を考えることが多いですが、その場合でも、2→3⇌4のような検討を様々なスケールで繰り返すことになります。
また、旅程が長期間に及ぶにつれ、災害等による突発的な変更を強いられる可能性も高くなってくるため、あまりガチガチに固まった予定を組むのもリスクがあります。本当に崩せないクリティカルパスの前には余裕代となるような時間を配置する、泊地までたどり着けない事態を回避しやすい等、骨格は固まっていても、1日の中では柔軟な対応が可能となるような旅程が望ましいと思います。