町並みトランジット型 同人総合時刻表の作り方

総合時刻表を制作したい!あるいは何を考えて作っているか知りたい!という人向けに、どのようなスタンスで時刻表を作成しているのか備忘録的に書いてみようと思います。

なお、他にも総合時刻表を制作しているサークルさんがいくつかあり、そちらの記事の方がためになりますので、以下のリンクよりお読みください。

Local-Liner ~静サツ雑記帳 様(https://blog.goo.ne.jp/shizusatsu113/e/a6f1d8abdaef39bf3f838d5fe2915d7a

制作する時刻表の枠組みと情報の粒度

そもそも、現に動いている公共交通の時刻等、事実をまとめたに過ぎない時刻表に、唯一解としての「理想の時刻表」「完全な時刻表」というのはあるのでしょうか

極端な例として、日本国内に走っている全ての路線バスと鉄道の全停留所、全駅分の時刻をまとめた冊子が実現したとします。それは市販されているJR時刻表の100倍以上の厚みをもつものとなり、少なくとも紙として持ち歩くことは現実的でなくなるでしょう。ということは、電子版で作成し、かつ使用する際はまず地名等で検索をかけて目的の路線を見つける必要がありますが、それはNa○itime等の乗換案内サービスが提供している時刻検索システムとほとんど変わらないものであり、時刻表という形で編集された意味の多くを失ってしまいます。

ここからわかるのは、「(紙やPDFで)一覧できることによって認識プロセスにおいて(乗換案内より)有利な時刻表」という形式は、何らかの目的に基づいて、冊子として現実的なサイズとなるよう「抜粋された」情報の集合体であるということです。

必然的に時刻表は目的に合わせて製作されるということであり、逆に、最適な形は制作される「目的」ごとに異なる可能性があるということになります。

ここで、情報量がある一定ラインを超えると「情報の細かさ」と「総体としての認識しやすさ」はある時点からトレードオフの関係になることに留意が必要です。例えば一地域の全路線の全停留所を載せることによってミクロな運行経路や時刻の把握はしやすくなりますが、掲載路線数が増えてページ数が増加するほど、読み手の認知能力の問題から地域・地方全体の交通体系を把握することは難しくなっていく可能性があります。これは時刻表のみならず地図においても同様で、縮尺が小さい広域な地図ほど細かい情報が捨象されていきます。

このため、時刻表を持ち歩ける冊子のサイズで編集する限り、A.ある限定的な地域・会社におけるミクロな運行体制を把握する、B.広域における交通体系を把握する、という2つの目的のどちらかに重点を置くことになります。(北海道路線バス時刻表という、AをBのスケールで行っている化け物プロジェクトもありますが、大判で複数分冊となり、携帯性が落ちてしまいます。)

なお、Aについては読み物として楽しむ・その時点での運行記録として保存するといった使い方が想定され、Bについては旅行の計画を立てる・公共交通の概観を把握するといった使い方が想定されます。

これまで制作を続けてきた陰陽連絡時刻表は、かつて発売されていた「綜合時間表 九州版(九州旅行案内社)」に強い影響を受け、Bの方向に振り切れたものとなっています。紙の時刻表にどれだけ細かく停留所を記載したとしても、最後にバス停の場所を確認するのは現地かネット地図でしかできず、その部分について張り合うべきでない、むしろネット検索が充実してきた今に求められるのは、「どのように存在を認知し、検索可能な状態に持ち込むか」であり、そのためには全体像を把握することが最も肝心であると信じているからです。ぼんやり知っているものは調べられる時代ですが、そもそも全く知らないものは調べようとすることすら困難なのです。

より具体的な制作プロセス~まず枠組みから~

どういう目的で、どの範囲の時刻表を作るかを決め、それによって掲載する基準が固まります。陰陽連絡時刻表については、山陰と山陽の間に広がる地域の伝統的町並みや集落を訪れやすくするために、陰陽連絡ネットワークを構成する路線及び伝統的町並みへのアクセス路線をなるべく載せることとしています。他方、行き止まりとなるような路線(盲腸線)については、目的をもって利用する場合に旅程に組み込むのが容易(行きと帰りの経路が一意に定まりやすく、旅程計画上複数のパターンに発展しづらい)ことからかなりの部分を捨象しています。

また、掲載停留所については、主たる集落単位となるように心がけていますが、バス会社の公式時刻表自体が抜粋版の場合、その抜粋をそのまま採用していたりします。

存在する路線を調べまくる

存在するバス路線を様々な手段を用いて調べまくります。立ち上げ期は昔買った日本のバス路線がほぼすべて網羅された地図(同人誌)をよく参照していましたが、今は「○○(地名)、バス」で検索すると、バス会社なり自治体のまとめページが出てくるため重用しています。極まれにネット上に公式の時刻が載っていないバス会社があり、現地に行って調べるか、Twitter等で有志が時刻を上げていないか検索するぐらいしかできません。

エクセル等に打ち込み、時刻が羅列された素のデータを作る

この工程を自動化している方もいるとは聞いているのですが、複数の会社の時刻を取得するには技術的な問題もあり、基本的に目視・手打ちでデータ化しています。入力数字を時刻データとして扱う方法と、単なる4桁の数字データとして扱う方法があると思いますが、入力の簡便さから後者で進めています(パターンダイヤの際の加算減算打ち込みが少し面倒になりますが、数式を利用して省力化をしています)。

また、この時点で、制作する時刻表がどのぐらいの版型になるのか(A4なのかより小型なのか)、文字のサイズ等の完成イメージを決めておくと、どのぐらいの停留所密度で掲載すればいいのか当たりが付き、全停留所のデータを入力した後で間引くという2度手間を回避することができます

なお、打ち込み時に抜粋する停留所は、鉄道駅と対応関係にある停留所、集落の中心にあるような停留所、路線の分岐点となる停留所、市役所や大規模施設の最寄り停留所、名前が印象的で検索しやすい停留所などを優先しています。

時刻や停留所の並び替えや整序をして、1P単位の版面を整える

総合時刻表の場合、鉄道とバスの時刻表は打ち込んだ段階では別々の表となっていますが、これを1つのシートにまとめ、列を時刻順、行を位置関係に合わせて並び替え、総合時刻表の形態に整える作業をします。この時点で、鉄道並行バスの全停留所データを打ち込んでいた場合、極端に列車の時刻欄が空いてしまうことから、見やすさと情報量の観点から削除や追加等の補正をします。

このあと、罫線や塗りつぶし、太字等の修飾をし、1つの路線ページが1Pに収まらない場合は複数ページに分割し、エクセルでの作業が不要なところまで整えます。

路線の掲載順を決める

JR時刻表とJTB時刻表の大きな違いが路線の掲載順であることは有名ですが、時刻表の掲載順を決めるのも中々悩ましいものがあります。基本的には不規則な配置は避け、空間認識的に受け入れやすい順番で掲載したいところですが、必要ページ数が奇数の路線と偶数の路線が入り乱れる中で、偶数の路線については極力見開きで配置したいことから、若干前後することは仕方ないと考えています。最悪、コラム等でページを強引に飛ばすという方法があります。

表紙・路線図等を作成して完成!

路線図は掲載路線が増えれば増えるほど作成したほうが良いと思います。そもそも(土地勘のない場所で)時刻表だけを見て路線網を把握することは困難なので、通常なら時刻表と地図を照らし合わせながら「解読」することで路線網を把握しますが、そのプロセスに初速を付けるのは、時刻表を読むうえでもとても重要だと思っています。

制作に要する時間について

ここまでお読みになられた方ならご想像のとおり、調査・打ち込みに7~8割の時間を要し、残りの作業で2~3割といったところでしょうか。陰陽連絡時刻表は新規追加ページがほとんどなく更新が基本となりますが、それでも30~40時間程度は要していると思います。新規制作だとA4×2ページで30分~1時間ぐらいの換算になりましょうか。もし同じデータ量を掲載する場合、より小さい版面の方がページ分割等で考えることが増え、制作時間も延びますのでご注意ください。

作ろうと思えばだれでも作れる

最後になりますが、やる気とパソコンさえあれば誰でも作れる参入障壁の低い分野ながら、ほどほどに奥の深い分野でもあり、なにより交通体系のみならず地域事情を掘る下地になりますので、是非作ってみてください

コメントを残す