設計の妙が感じられる団地
コロナ禍の下、立場上長距離のおでかけが制限されている人も多いかと思います(私もその一人です)。
とはいえ、近場のおでかけも何かしらの目的地がないと出かける気にならないような状態ですので、ここでは、これまでに廻った東京近郊の団地のうち、航空写真等ぱっと見ではわからないけれど、いざ訪問してみると、設計者や管理者の思いが強く伝わってくるような団地をいくつか紹介します。
神代団地(調布市、狛江市)
京王線つつじヶ丘駅から徒歩10分程度の郊外にあるURの中規模団地で、つつじヶ丘~団地~狛江駅~調布駅を結ぶ京王バスが頻発しており、小田急線側からのアクセスも可能です。
野川沿いのほぼ平坦な地形にあり、南面平行配置で一般的な階段室型低層住棟が並ぶため、大縮尺で俯瞰するとごく一般的な団地のように見える神代団地の一番の特徴は、緑地・プレイロット・広場等空地の多様性と使われ方にあります。
神代団地の団地センターにはスーパーマーケットを含む商店街があり、広場・公園と一体化する極めて普遍的な構造となっています。
ただし、通常の団地であればスーパーにまばらに人が居るほかはほとんど活気がないものですが、ここ神代団地においては、雑誌編集や雑貨販売を手掛ける会社によって「手紙舎」なるカフェが運営されており、テラス席も設けられるなど、かなりの賑わいを見せています。また、隣接する広場・公園にも多くの子ども連れが見られます。
他にも神代団地のプレイロット(遊び場)は改修が加えられており、より低学年向けの遊具が置いてある広場から、フェンスで囲まれ、壁打ちやミニゲームで使用可能なコンクリート壁が設置された球技用の広場まで、ニーズに応じた幅の広い空間が創出されており、訪問したのは祝日の午後だったのですが、子ども用自転車が多く集まり、団地内住民のみならず、地域全体の遊びの場として良く使われているさまが伺えました。
また、住棟へのアクセスを担う歩道と住棟の間の関係性も様々であり、直線的で素っ気ないものから、ゆるやかなカーブを描きながら花壇のように花が植えられているものまで、様々な外構が見られます。
空地に植えられている植栽についても、植え替えや刈り込みがしっかりとなされており、暗さや無秩序感を感じさせない中庭空間となっています。
神代団地は、住棟や地形の点で単純なため、建物と建物の間にある空間が設計の違いによってどう変わるのか、多大なインフラを必要とする集合住宅が地域に依存するのではなく、内包する豊かな空間を地域に開き、還元することによって地域全体の価値を高めていく、そうした観点を与えてくれる団地です。
百草団地(日野市、多摩市)
神代団地と同じく京王線沿線の百草団地は多摩ニュータウンの北隣、多摩市・日野市・八王子市の市境近くにあるURの団地で、中央大や帝京大のキャンパスの近くにあります。
百草団地は航空写真でも見てもわかるのですが、小さなセル状の住棟が雁行あるいは線状に結合する形で一つの住棟を成しているのが特徴です。
これは、敷地全体が傾斜のついた丘陵頂部に位置し、かつ南北の長手方向に比べて東西の短手方向の傾斜が厳しいため、東西の高低差を大きく造成して段切りした場合、折角の大規模敷地が細長く分断され、住棟が南北に伸びて採光の面で不利となってしまいます。そのため斜面をなるべく残して、地形差に追随できるように階段室型住棟を宅盤を上下にずらしながら結合し、南面配置を実現しています。
こういった団地設計における一般的な考え方については、団地を社会面ではなく工学・設計面から捉えた名著「団地図解」(2017,学芸出版社)に詳しく記載されています。
また、そうした中で、団地全体を南北に貫く歩行者軸は、ゆるやかな傾斜のついたS字カーブを多用し、歩いている人に飽きさせない景観を実現しています。また、中央で交差するバス通りとは自然な形で立体交差し、そのまま団地センターの建物に突っ込んでいく様は、まるで三次元の魔術師が設計したかのような、刺激的な動線として印象付けられます。
団地センターの西側には造成しきれず、大規模な平坦面が確保できなかった土地が残りますが、そこには高層住棟を建てることで団地のシンボルとするとともに敷地を有効活用しています。
百草団地は敷地・地形の制約を造成・建築設計・住棟配置・動線設計等の工夫で乗り切るという、大規模団地設計において求められる取り合いを上手く処理して建設されており、とても勉強になる団地でした。
センターのバス停には聖蹟桜ヶ丘と高幡不動へバスが頻発しているほか、団地南縁のバス停には多摩センターと帝京大を結ぶバスが立ち寄ります。
竹山団地(横浜市緑区)
竹山団地は横浜市緑区の丘陵地帯、横浜線鴨居駅と相鉄線西谷駅のほぼ中間に位置しています。
鴨居駅からバスが頻発しているほか、近年の改正で一部の便は笹山団地を経由して西谷駅にも乗り入れるようになり便利になりました。
竹山団地のみどころは何と言っても団地センター商店街でしょう。初めて訪れたとき、まるで池を囲む日本の邸宅をそのまま現代化させたかのような、美しい団地だと感じました。
調整池に張り出す形で建設された住棟及び商店街は、その主たる歩行者軸は池側を向いており、また、池を跨ぐように歩行者用の橋が架けられ対岸の住棟へのアクセスを担っています。こうした設計は、その後の集合住宅や商業施設の設計においては一般化していきますが、高度成長期に造られた当団地はその嚆矢ともいえるでしょう。
また、そうした大胆な配置計画だけでなく、こまやかな造形にも凝りを感じさせます。技術の進化によりヒューマンスケールを超えつつある一方で、そうした面にも気を遣うギャップが、そうした質感あるいは刺激を忘れつつある現代人にとっては、特に印象的なものとなっています。
この団地は2020年に優れたモダン建築が選ばれるDOCOMOMO JAPANに選定されており、建設された1972年当時の建築が持っていた力強さを感じさせてくれます。